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広報誌「やさしいまち」2024年新春特別鼎談

 「若者」を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、私たち社会福祉協議会は他の支援団体と共に、未来を担う「若者」を守り、育んでいく責務があります。

 新たな年を迎えて、これからくる輝かしい未来を創造するにあたり、その中で生き生きと活躍する若者達の姿を願わずにはいられません。

 この度の鼎談では、札幌市における数ある若者支援団体の中から「居場所づくり」と「ジェンダー」という観点を持って活動されているさっぽろ青少年女性活動協会の松田部長と同協会が受託する男女共同参画センターの菅原係長お二方にお話を伺いました。(聞き手は当会会長 福迫尚一郎)

 鼎談は新春特集記事として広報誌「やさしいまち」2024年1月号に掲載されておりますが、紙面の都合もあり全ての内容を載せきれませんでした。ホームページ版では残念ながら広報誌ではお伝えできなかったちょっと深いお話も含めて、鼎談の全てをご紹介します!


▲(左から)公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会 こども若者事業部 こども若者支援担当部長 松田考氏、同協会 市民参画課 係長 菅原亜都子氏、本会会長 福迫尚一郎

「チャレンジする」新春特別鼎談
 子どもたちが地域で輝ける未来を考える

福迫 「若者の居場所づくり」と「ジェンダー」それぞれの観点から、お二方が取り組まれている活動についてお伺いします。

 

松田 組織としては40年以上、青少年の健全育成をテーマとして市内の児童会館の運営を始め様々な事業に取り組んできました。2000年頃から「不登校」や「ニート」「引きこもり」などといった課題 が顕在化し危機にさらされる子どもたちが社会問題となっていきます。そこで「健全育成」という法人の従来の柱に加えて、子どもたちを福祉の対象として支え、援助するという活動の軸が生まれました。私は現在、そちらの取組に中心的に関わっています。ここ数年は、家族と社会の間にある「いとこんち」という子どもたちの居場所づくりに取り組んでいます。昨年からは新たに「出張リビングカー」という取組を始めました。「居場所」ごと都合の良い場所まで運び、ご飯を食べたり、勉強したり、おしゃべりしてくつろいだり、時には相談室にもなれる「どこでもいとこんち」のようなイメージです。

 

菅原 元々あらゆる性別の方を対象として、性別ゆえの困難を解消していくための支援や啓発を行っています。今回のテーマとなる「若者」に焦点を当てると「若年女性」支援として、2016年から「ガールズ相談」というLINEを使った相談の受付を開始。公的機関への相談はハードルが高いかもしれないという不安もありましたが、実際は2週間で600件を超える相談が寄せられました。
 若い方たちは悩み事がないのではなくて、今までは相談しやすい手段が見つからず、そもそも相談しても良いのだということも分からなかったのだということに改めて気づかされました。
 相談は課題の発見につながりますが、私たちだけで課題の解決をすることはできません。同じ組織内の他部署や市内にある他の女性支援団体と連携をしながら取り組んでいる状況です。
 また、当財団が札幌市から受託している「LiNK」(札幌市困難を抱える若年女性支援事業)では、月1回すすきのエリアの夜回りを行っています。

 

福迫 北海道商店街振興組合が実施している「民間交番」という取組がありまして、私は狸小路にある「都心民間交番」でボランティアとして活動していたことがありますが、本当にいろいろな方がいらっしゃいました。すすきのエリアでの夜回りではいろいろと難しい相談も多かったのではないかと想像します。

 

菅原 いきなり大人が近づいきて話しかけられたら、警戒するのは当たり前ですよね。お渡しできる化粧品などを用意し、それを選んでもらう中で会話をして信頼関係を作るなど、工夫をしながら活動しています。

 

福迫 こうした支援がないと、安心した生活が送れない現状があることを改めて実感します。現代の若者を取り巻く環境における課題について、どのように捉えていらっしゃいますか。

 

松田 家族という存在の外側にすぐに社会があるという状況が現代ではないかと思います。一昔前は家族と社会の間には地域があり、ご近所さんや親族、友人などがいて、子どもたちが社会と直接対峙する前の緩衝材的な役割や育ちの場であったりもしました。
 また、家族自体も単位が縮小化したことで課題を抱えやすく、課題を抱えたまま直接社会の目に晒されて対処しなければならない機会が増えてきたことが課題であると考えています。
 「いとこんち」の取組は正にその「失われた緩衝材や育ちの場」を補うことを目指しています。子どもたちにとって血縁はないけど、おじちゃんおばちゃんがいる居場所として、たわいもないお話をしたり食事を一緒にとったりしています。

 

菅原 生涯に渡って女性ならではの困難というものはありますが、私たちの社会においては、特に思春期の女性がセックスや妊娠、出産などを、経験をすることで、本来守られるべき対象であるはずが、性的な存在とみなされたり排除されたりするという現実があるということです。
 過去に女子高校生を対象とした起業イベントを開催したことがあるのですが、その際に会場にいらっしゃった男性の方から「女子高校生は水着でくるの?」という言葉をかけられたことがありました。驚かれる方もいるかもしれませんが、インターネットやテレビでは、そのような連想が普通にされるような情報があふれているというのも現実です。
 「女子」「女性」という言葉が付くことで性的な目で見られるリスクというのは、社会側が抱えている課題であるにもかかわらず、あたかも女性側に問題があるかのように受け止められる状況が現代の大きな課題の一つではないかと思います。

 

福迫 お話から熱い想いが伝わってきます。業務であるという以上に、お二方を活動に駆り立てる想いや原点のような体験があるのでしょうか。

 

松田 自身の経験の中に何か若者支援の原動力となる特別な出来事があるわけではなく、社会を変えてやろうという情熱に駆られているわけでもありません。
 ただ、一日一日の出会いは大切にしていますし、目の前にいる若者たちが今日も明日もハッピーに生きることができたら嬉しいと常に思っています。
 しいて言うのであれば私の活動はこうした思いの積み重ねの上にあるもので、これからもそれは変らないだろうと思います。
 ところで、いろいろな方に思春期の楽しかった記憶を聞くと、学校でもない家でもない放課後の活動、例えば友達と遊んだことや部活などを挙げられることが圧倒的に多いです。ところが今は、放課後に自由に外で遊ぶのが難しくなってしまい、その時間を豊かに過ごすためには「家にある程度のお金があること」「学校にきちんと通えていること」が求められてしまうのです。そうなると、不利な状況に置かれた子どもや若者にとって、大切な放課後の思い出を作ることさえ難しくなってしまうので、そこを何とかしたいという思いは常に持っています。

 

菅原 私も最初は自分が女性であるという当事者性であったと思います。特に若い頃は、女性であることが理由で不条理に悔しい思いをすることも何度もありました。ただ、今は自身の中に芽生えた責任感のようなものが原動力になっていると思います。
 当財団に入職して約20年ジェンダーの問題に取組み少しでも不平等という課題を解消するために活動を続けてきました。それでも北海道のジェンダー・ギャップ指数(※1)は全国的に見てもとても低いのが現状です。
 こうした状況を今の若い女性たちに未だに経験させてしまっているという申し訳なさと20年間取り組み続けてきた者の責任として何とかしなければいけないという想いが日々の活動につながっています。

 

福迫 私ども札幌市社協は、様々な団体と共に地域福祉の推進に向けて日々取り組んでおります。現在も企業の貢献活動とのつなぎや居場所づくりなどの場面において、さっぽろ青少年活動女性協会様との連携は行われておりますが、今後の展開や新しいアイディアなどがあればぜひお聞かせください。

 

松田 「いとこんち」の取組を始めてみると、近所の家の方がおかずを届けに来てくれたり、町内会の役員の方が気にして寄ってみてくれたりと、「地域」を感じる出来事がたくさんありました。地域には、例えば里親制度に申し込んだりするとなるとハードルが高いけど、ちょっとしたお手伝いならむしろ喜んでやりたい。と思っている方がたくさんいらっしゃって、そうした方たちとのインフォーマルなつながりのきっかけを作り、広げていく取組をぜひ札幌市社協さんと一緒にやっていけたらと思っています。
 最近、地域の中学校から朝ご飯を食べてこない生徒のために「いとこんち」で朝ご飯を出してくれないかという相談があり、おにぎりを用意するようになったのですが、話を聞いて近所に住む方が「手伝わせてほしい」と言ってきてくれた例もあります。

 

菅原 若者たちが地域組織に所属しているという意識を持てない状況で、何か困ったときに地域に相談しようという発想はまず浮かびません。
 私たちが最近こうした現状を感じた出来事として2018年に起きた胆振東部地震があります。発災から数日後に女性たちの困りごとの把握を目的としてLINE相談を開設しました。子育て世帯や介護を必要とする家族のいる世帯などからの相談が多いのではないかと事前に想定をしていたのですが、ふたを開けてみると単身女性から人生に対する漠然とした不安を訴える内容の相談が多く寄せられました。
 会社にも行けず、電気もつかない備蓄もない家に一人でいる時に、誰も相談できる人がいない状況を経験してに言いようもない不安に襲われる女性。本当は支援を必要としている存在なのだということに私たちもしっかりと気づいていなかったと反省しています。
 普段から地域や関係機関の支援とのつながりがない中で、非常時だからと言って、いきなり漠然とした不安や孤独感のような感情を地域に相談する、ということは困難でしょう。ただ、何もない時に相談したりすることはやはりハードルが高いので、「あったらラッキー」くらいのつながりを生み出す支援が増えればよいのではないかと考えています。
 例えば私たちは月に1回「クラウディキッチン」食料や生理用品の配布を行う取組を行っているのですが、「ちょっと今月お金が厳しいな」といった時に足を運んでもらって受渡しの時に少しお話をすることで、何かあった時のためのつながり作りにつながればと思っています。

 

福迫 札幌市社協が仕組みづくりの柱の一つとしている「地域」と「若者」の距離感が、現状としては、かなり離れているようにも感じておりましたが、お話を伺って前向きな可能性が感じられました。
 私が住んでいた地域には「昆虫サークル」という集まりがあって、地域の大人たちと子どもたちが昆虫採集を通して色々なところに出かけて行ったりする機会がありました。今でも何かあれば参加していたメンバーで集まることがあります。つながるきっかけはあまり難しく考える必要はないのかもしれませんね。

 

福迫 社会の変化に合わせて、福祉課題は変化し続けることを考えると、我々の支援にゴールはないのかもしれません。ただ、熱い想いをお聞かせいただいたお二人にはあえて、それぞれのテーマにおいて目指しているゴール、未来の姿について最後にお伺いしたいと思います。

 

松田 子どもたちには、日々ワクワクしながら過ごしてほしいと願っています。明日が来ることが待ち遠しい、将来に希望が持てる。そんな社会の実現に必要なことは、生まれてきた家庭に左右されず、どんな地域で過ごしてきたかに関係なく、「自分の未来は自分で選ぶことができる」という選択権を自分は持っているのだという実感だと思います。

 

菅原 「ジェンダー」の問題に取組み続けてきて、「家族」や「地域」という本来温かく包んでくれる存在が、むしろ本人の自己実現の壁となっている現実を目の当たりにしてきました。
 特に「ジェンダー」の問題を抱えながら家族や地域のしがらみの中で夢を実現することは困難を伴います。
 ジェンダーに対する理解が進み、本人がどのような生き方を選択しようとも、そこのことを理由とした偏見の眼差しにさらされることなく、心から応援し支えてくれる家族や地域、そして誰もが平等に生きたい自分を目指すことができる社会の実現を願っています。

 

福迫 だれもが自分らしく生きることができる地域社会を目指すこと。この方向性は「若者支援」に限らず多様性が進む社会において、共通の願いだと思います。他の人と違うことを「認め」て「受け入れる」ことが重要で、決して「違い」が分断や孤立を引き起こすものであってはなりません。
 私たち社会福祉協議会も地域と共に多様性のスピードに置いて行かれないよう、常に前に進み続けなければなりません。

 引き続き多くの市民や支援団体の皆様のお力を借りながら、取組を進めてまいりたいと思います。本日は貴重なお時間を頂き誠にありがとうございました。

※1 ジェンダーギャップ指数  

世界経済フォーラムが、経済、教育、保健、政治の分野毎のデータを使用してウエイト付けしている男女の違いにより生じる様々な格差の指数。

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